塾・研修参加者の声

お客様インタビュー

柴田 勉様
日本たばこ産業株式会社
医薬事業部
臨床開発部 次長
人財育成チームリーダー
農学博士

・米国赴任時に、世界のエリートと仕事をしていくためには日本人としての軸や「人間力」が必要であることを実感。それを培うためのプログラムとしてリベラルアーツ研修を実施。
・「現場の人にこそコンセプチュアルスキルが必要」との考えに基づき、選抜教育ではなく、全階層を対象に手挙げ制で実施。
・身近な内容から導入し、現在は本格的な内容で実施。今後は、ビジネスに直結する、未来を思考するリベラルアーツ研修を構想中。

日本たばこ産業株式会社様は1987年より医薬事業に進出し、現在、医療用医薬品の研究開発、製造、販売及びプロモーションを行っていらっしゃいます。医薬事業部 臨床開発部では、全社に先駆けてリベラルアーツ研修を導入されました。人財育成チームリーダーを務めていらっしゃる柴田様に、その経緯について、お話を伺いました。

人間力、リーダーシップ、グローバルの3本柱で人財育成

― 貴部門での人財育成の考え方と、その中でのリベラルアーツ研修の位置付けを教えてください。

倫理観が重要視される臨床試験に携わる臨床開発部として、独自に人財育成を行っています。具体的には、「人間力」、「リーダーシップ」、「グローバル」の3つを人財育成の柱にしています。このうちプログラム化の難しい「人間力」については、リベラルアーツを研修として取り入れました。

米国赴任時にエリートと接して、リベラルアーツ教育の必要性を痛感

― リベラルアーツを研修に取り入れようとお考えになったきっかけはどのようなことだったのでしょうか。

開発を担当していた頃、米国ニュージャージー州プリンストンに拠点を置く子会社に赴任する機会がありました。街全体の雰囲気がとてもアカデミックで、職場も博士が多くいるようなところです。そこで現地の人々と接する中で、彼らの持っている引き出しの深さや日本人との違いに衝撃を受けました。皆は自分軸をしっかりと持っていて、非常にソフィスティケイトされている。宗教の話はタブーなどと言われることがありますが、深い付き合いをすると、必ず宗教や文化の話を訊かれます。そのときに、日本人はこれをきちんと説明できない。日本の学校教育では、そうした内容を学んだり考えたりする機会が十分にないからだと思います。
またグローバル環境下では当り前のように考える必要のあるダイバーシティは、そこで起きるコンフリクトを体感しながら価値観や考えの違いに触れることで学ぶことができます。しかし、帰任時に日本で取り上げられていたダイバーシティは専らジェンダーの違いでした。グローバル環境下で仕事をするには、本当の意味でのダイバーシティを理解する必要があり、そのためには「人間力」が根源ではないかと考えるようになりました。

―「人間力」とは、どのようなことでしょうか。

自分軸や判断軸を持つことだと考えています。そのためには、「自分は何者なのか」「何を大切にしているのか」を考える必要があります。他者との違いや類似性など、多角的観点から物事や思想に触れることがその発見や理解に繋がると思います。このようなことを考えると日本や世界の古典などを取り上げるリベラルアーツを学ぶことがとても有効ではないかと考えるようになりました。

グローバルでは「日本人としての」活躍の仕方がある


「プロフェッショナル」とは、専門性が高いだけではなく、一人ではできないことを、人と人を繋いで実現していくことができる人のことだと思います。専門性に加えてコミュニケーションにも長けていること、それは〝術″としてではなく、人となり、〝Being″を理解しあうこと、そこに魅力があることが、必要なのだと考えています。

「部分を集めても<全部>にはなるが、<全体>にはならない」という考え方をしています。生物学的に考えると、臓器を集めただけでは生き物にはならず、そこにはいのちが必要です。企業における組織も同じで、人を駒のひとつとして扱っても「全体」にはならない。性別、勤務拠点、雇用形態や勤務時間も様々な中、チームの一員として一人ひとりを巻き込み、巻き込まれることを大切に考えています。本社と海外子会社、研究と開発、正社員と有期雇用社員や派遣社員など、異なる組織や人々を繋ぐ。こういう仕事は、「空気を読む」力を持った日本人に向いていると思います。それは、空気を読んで表面的な穏やかさを保つというのではありません。空気を読んで相手の信頼を得、本音の話をできるようにするということです。

私がアメリカに派遣された際の肩書きはプロジェクトコーディネーター、つまりグローバルチームをコーディネートする業務です。医薬品の研究、開発は専門性が高く、違う業務となると詳細は分かりません。赴任当初はそのような状態でしたが、従業員の個人オフィスを回って何もわからない自分をさらけ出し、本音ベースのニーズを話してもらって日本の本社との間を取り持つようにしました。状況や環境が変わった時に何を軸にして対応していくのか、「自分軸」を考えたとき、それは日本人としての強みを
生かした「架け橋」の役割だったと思います。そして「架け橋」としてやってきたことが、結果としてグローバルチームのマネジメントに繋がりました。

「この人がいるから協力したい」という思いを皆が持つためには、〝Being″としての魅力が必要です。そのためにも、リベラルアーツを学ぶことで得られる自分軸が重要です。情報が氾濫し、何が良いのかがよくわからないとき、判断の拠り所として、古典などリベラルアーツの中に答えを見つけられることがあると思うのです。

VUCAの時代、現場の従業員にこそリベラルアーツが必要

― リベラルアーツ研修は、どのように実施されていらっしゃるのでしょうか。

2015年からリベラルアーツ研修を始めました。最初は大学の先生をお招きし、農業や原発問題など、少し身近なテーマを取り上げました。当初は選抜研修で実施することも検討しましたが、100人ほどを対象とした中での手挙げ制にしました。VUCAと言われる先の見えない、変化の激しい時代の今、現場で起きている難解なことを、ヒエラルキーの中で上げていってトップで決済するという伝統的なやり方では、時間がかかりすぎます。また答えを求めている若い人が多いように思いますが、答えの無い問いをどう考えるかが、この時代には重要になります。その意味でも、現場の人々の〝OSをバージョンアップ″することが、強い組織の実現に繋がると考えています。

「大学」※に「本末」という言葉が出てきます。「本」が無いと、「末」は無い。「本」は徳で、「末」はスキルを指しています。スキルのうちある部分はすぐに陳腐化したり、今後AIに代替されたりします。だからますます、「本」の部分としての徳=「人間力」が大切になる。こうした時代には、「Training」ではなく、「Development」あるいは「Nurture」としてのプログラムを提供したいと考えており、このような考えにリベラルアーツがフィットしたという感じです。

時間軸を武器に、段階的にリベラルアーツ研修を導入

― 最初から参加希望の手が挙がったのでしょうか。

開始当初から、一定数の参加希望がありました。今の30代から40代の人たちは学習の機会を求めており、目の前にそうした機会があるのは良かったのだと思います。研究者は自分の研究領域に没頭して他の事が目に入らなくなることがありますが、リベラルアーツ研修については思いの他興味を示してくれました。「こういうことも必要ですよね」と言ってくれる人がいたのです。

研修を継続的に行う中で、知的好奇心が刺激された部分もあると思います。宗教を取り上げた際に、従業員の中に(意外と)思うところがあるのがわかり、そうであればもっと専門的なものを取り入れられるのではと思って、2017年頃から本格的なプログラムを探し始めました。そうして見つけたのが、不識庵です。前任の部長が不識庵の経営幹部育成研修『不識塾』の出身で、紹介を受けて、『不識塾』の講師や修了生の方のお話を聞くシンポジウムに参加したところ、そのレベルの高さに感銘を受け、導入を決めました。

リベラルアーツをビジネスで応用できるものにする

― 今後はどのような方向性をお考えでしょうか。

リベラルアーツ研修を始めた2015年当初は、研修終了後の受講者アンケートには、辛らつな意見もありましたし、「勉強になりました」など表面上の話だけが書かれているようなものもありました。しかし最近では、研修の内容に対して自分の意見や思いの丈を書いてくるようになりました。

受講者アンケートより

「柳生徂徠や本居宣長が日本人の近代思想の出発点となっていること、しかしながらその思想は故きを温めて考察されて生み出されていること等は、今の日本を考える上で大変重要なポイントと思いました。職の所有と社会的な責任とが分離することが社会の安定性を失うというくだりは、大変興味深かったです。今の組織論等にも適用可能な考え方と思いました。」(「なぜ歴史を学ぶのか」講座)

「滅亡したことがない日本の特徴から、日本人は「私」の上に「公」の考えがあることも納得できた。グローバルで様々な国のスタッフと話をする際にはその国の歴史から文化を少しでも理解したいと思う。」(同)

「感じた事は、様々な哲学を学ぶことで複眼的思考が意識づけられ、人生の幅が広がり、深みが増していくのだろうという事です。日本の文化が今日のグローバル化において普遍化できるもので、最も大切にすべき事という先生のお言葉には非常に強く感銘を受けました。」(「哲学入門」講座)

どんなことにも賛否はありますが、人財開発は中長期で考える必要があると思います。
はじめは「何だかよくわからない」が、やってみる。リベラルアーツ教育は即効性のあるものではありませんが、時間軸を武器に、回を重ねていくと、理解も浸透していくものだと感じています。

今後は、研修で学んだことを現場に持ち込んで、仕事に生かして欲しいと思っています。これが無いと、ただのお勉強になってしまいますから。そのため次のステップとして、哲学などビジネスに直結する内容や、未来を思考するテーマの研修を考えています。例えば、ハラリの『ホモ・デウス』にあるような未来の話に、今実施している、ベースとしてのリベラルアーツ研修をどう繋いでいくかというようなことを考えています。

また答えのない問いに向き合うには、対話も重要です。表面的な対話は、最後は妥協で終わってしまう。そういう対話ではなく、喧々諤々の議論ができることが大切です。それがあってこそ、人財も育ち、また組織開発にも繋がる。イノベーションもそこから生まれてくると思うのです。そして喧々諤々の議論は、根底に信頼関係が無いとできません。そこにもやはり〝Being″が関わっていて、やはり「人間力」が必要になります。

日本は今、国際競争力が低下し、危機と言われています。しかし歴史的に見ても、危機の時の方が外部からの様々な知恵を受け入れやすい。危機の今だからこそチャンスで、「受容して、よりよく日本化する」という日本の強みを生かすことができるのではないかと考えています。
(2019年6月インタビュー)

※「大学」・・・儒教の経書の四書の一つ。


PAGE TOP