基本理念

  不識庵は、哲学、歴史、文化、宗教、倫理などリベラルアーツ教育を通じて、確固たる歴史観と大局観を養い、以って自身のアイデンティティを確立するとともに、日本の立ち位置を正しく世界に示し、グローバルな場において尊敬される真のグローバル経営者を育成することを目指します。

  したがって、不識庵は経営スキルを学ぶところではなく、リベラルアーツを通じて「物事の本質」を見極めるための研修を目指しています。禅宗の始祖、達磨大師の教えにあるように、「物事の本質」は表面的な知識やスキルだけでは「識り得ないもの」(不識)であり、厳しい修行によってはじめて体得できるものです。不識庵では、「物事の本質」は、それぞれの道を極めた専門家との知的・人間的な交わり、塾生間の切磋琢磨、広範な読書と日常的な思索の習慣などを通じて得られる「洞察力」の中から見え始めるものと考え、これらの実践を塾の基本方針としております。

激変する資本主義世界にどう立ち向かうのか

  世界に目を転じますと、「アメリカ・ファースト」を標榜するトランプ政権の誕生、英国のEU離脱など、従来のグローバル化一辺倒の考え方に変化が見られます。他方、人工知能(AI)が人類の知能を超える「シンギュラリティ」の到来が予言され、生命科学の飛躍的発展による「不老不死」の可能性が議論されるなど、人類文明の基本を揺るがす事態が進行中です。このように、世界は大きな歴史的転換期にいます。これらの変化をどう捉えればよいのでしょうか。とりわけ、日本企業はいかにしてこのような歴史的変化に対応し、グローバル・ビジネスを成功させることが出来るのでしょうか。

  しばしば指摘されているように、日本企業のグローバル展開にとって最大の問題は「グローバルに活躍できる経営人材の圧倒的な不足」です。外国生活を経験された方の多くが実感されている通り、最大の問題のひとつは、英語が出来ないといった表面的なことにあるのではなく、日本人が日本の歴史や文化を深く知らないという点にあるようです。自国のことを深く知らないと、たとえ言葉ができたとしても、外国のエリートたちとの「深くて意味のある会話」がなかなか成立しないという問題が生じてしまいます。

  もちろん語学力も重要ですが、同時に、日本人が自らを良く知り、同時に、「世界に通用する高い見識」を身につけることによって、相手との人間関係を緊密化させ、それをもとに高度なコミュニケーション能力を身につけることこそ、グローバルな場で大きな仕事ができる大前提になります。大きな交渉事をまとめる際、大事なのは、実際の交渉に入る前の雑談だといわれます。この「品定め」の場において、相手から信頼と尊敬を勝ち取ることこそが重要であり、ここを無事通過できれば、交渉事がまとまる可能性は飛躍的に高まります。

日本人は何故「自国のことを知らない」のか

  自国のことを深く知らないということは、世界のことを深く知らないということに直結します。なぜなら、自国の歴史や文化について無知、無関心であれば、世界を評価する「基準」を持ちえないからです。無国籍の宇宙からやってきたような人物に対しては誰でも警戒するのは当然です。実際、外国で生活する場合、自国のことを話せず、自国を誇りに思えないような人に対しては、外国の人は警戒心を抱くことが多いようです。

  日本企業がグローバル化する場合、絶対に避けなければならないことは、会社が実態として「無国籍化」してしまうことです。なぜなら、そうなってしまえば、日本企業が無意識に備えている日本企業としての「独自の強み」が消滅してしまうからです。長期的な信頼関係を重視する姿勢、丁寧で繊細なものづくり、独自の美意識など、多くの日本企業を支える「独自の強み」がなくなれば、グローバル・ビジネスで成功することはおそらく不可能だと思います。

  なぜ日本人は日本のことを知らないのでしょうか。様々な要因がありますが、その一つは戦後における日本の教育の基本が「西洋中心史観」(日本は西洋諸国に比べ劣った国であり、従って、自国のことを学ぶより、先進国である西洋から学ばなければならないという歴史観)に基づいて組み立てられているからだと思います。そのため、学校教育の場においては、自国のこと(歴史や文化、伝統、国の成り立ちなど)を学ぶよりも、先進国である欧米のことを学ぼうという傾向が強いのです。

  このため、日本は欧米や中国とどこがどのように違うのか、日本の歴史は諸外国と比べていかなる特徴があるのか、日本文化や日本的な価値の本質とは何なのか、日本人の宗教観は外国の人たちとどう違うのかといったごく基本的なことでさえ深く考えたことがない人が多いようなのです。こうなってしまったのは戦後日本教育が抱える大きな問題点だと思います。

「離見の見」を実践できる経営者育成を目指す

もちろん、このことは日本を美化するための復古教育を目指すものではありません。不識庵では、むしろ、日本人の刻んできた歴史、培ってきた文化を理解・評価し、それをもとに、「日本の競争力の根本にあるものは?」「日本文化の神髄とは何か、また、それは海外の文化とどう違うのか?」といった日本人なら誰でも答えられなければならない基礎的なテーマを考慮しつつ、研修プログラムを組んでいます。

もちろん、自分自身のことを知るだけでは不十分です。世界の人たちがどのような宗教意識を持ち、どのような価値観、美意識のもとに生活しているのか、といったことを知ることも必要です。それがなければ、充分に深い相互理解は不可能だからです。

『風姿花伝』を著した世阿弥の言葉に「離見の見」があります。これは役者の心得を述べたものです。すなわち、真に優れた役者は、客席にいる観客から見て自分がどのように見えているのか、ということを常に意識して演じなければならないという教えです。このような自分を客観的に見る力「離見の見」を持つというのは、グローバル経営に従事する経営者が心しなければならない心得と言い換えてもよいと思います。このような能力を磨くことによってはじめて世界の人々と深くて意味のあるコミュニケーション能力が身につくのではないでしょうか。そして、そのようなコミュニケーション能力こそ、グローバル・ビジネスを成功させる必要不可欠な要件なのではないでしょうか。

不識庵は、それぞれの分野における最高級の研究者、専門家、経営者の皆様の支援を得ながら、これまで長年にわたって蓄積してきたリベラルアーツ教育の経験を生かし、世界に通用するグローバル経営者を一人でも多く日本から輩出すべく、微力ながら貢献したいと考えております。

一般社団法人 不識庵
理事長 中谷 巌

不識庵